「ご馳走さま」の一言のために

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職場を離れた吉池は趣味人だ。今もツーリングに出かけるバイクをはじめ陶芸もやる。「しげの家」で出す料理の皿のいくつかは、吉池自身の手による物だ。年に一回程度だが窯焚きを手伝うかわりに、自分で土を練った器を一つ二つ一緒に釜に入れてもらい焼いている。数こそ少ないが、始めてもう20年、茶や花を勉強することが料理や器にも生きてくると考えている。

ここで、「しげの家」女将の視点を交えて見た料理長「吉池照明」の姿を紹介する。

女将いわく吉池は、アレルギーを持つお客様には、その食材を使わずとも美味しい献立を個別に考えてくれると言う。好き嫌いへの申し出にも文句を付けつつ素晴らしい料理を作り上げてくれる。料理を運ぶ女将には、馴染み客の好みが見えてくる。そこを板場に伝えることでその客専用の献立が出来ていく。結果として、客にとっては言葉にできない居心地の良さを感じてもらえるのだ。

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女将が他で食べて美味しかった食材や料理を取り入れたい時も、吉池はそのまま作るのではなく「しげの家」としての料理に落とし込んで表現してくれる。吉池自身は基本があるのでアレンジできると事も無げに話す。

そして長年の関係にも関わらず、自分を始めとする仲居たちを驚かせるような料理がいつも板場から出てくるという。吉池は、宿に来る客が何を求めているのか、料理の方向性を考えながら常にアンテナを張っている。料理を運ぶ女将と仲居の反応と意見は「客の意見」と捉え、まず彼女達を驚かせたり喜ばせたいと向き合っている。そして苦言こそ褒め言葉と捉え、次の料理に向けた糧とする。

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自分のタイミングで出来立てを出す料理と違い、宿は客と自分の間に入るスタッフがキーとなる。持ち運ぶ料理の説明はもちろんだが、客の反応や意見を板場へと持ち帰ってくれることが何より大切なのである。家庭では普段は捨ててしまうブロッコリーの芯を味噌漬けにするなど、意外な食材を懐石料理に取り入れるのも吉池の特徴だと言う。主婦でもあるお客様に身近な食材を目新しい形で出すことで、「家でもやってみたい」と好評を呼んでいる。吉池自身にとっては、客に喜んでもらいたい気持ちとともに、食材を無駄なく使うこと、どんな食材も作り方で「ご馳走」になることを伝えたいのだ。

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本来「馳走」とは走り回る意味の言葉であり、「ご馳走」とは客人のために自分の足で食材を集め、手間をかけて作る料理のことだ。そして「ご馳走さま」は、料理でもてなされた客からの感謝を表わす言葉である。

「しげの家」の献立は季節毎に変わるが、リピーターや連泊も多いため実際には細かく内容や盛付けを変えている。馴染み客が多いのは嬉しいことだが、その分献立の発想には頭をひねる。一度目は料理に感激してくれたお客も、二度三度になると感動は薄れてくるものだ。吉池は、その日その日の料理を常に自分のベストの味にしたいと努力している。

単なる「いただきました」より、「ご馳走さま」と言ってもらえる料理を作るために努力します。そう言って吉池は言葉を結んだ。



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長きにわたって料理長を勤めて参りました吉池は2017年度より相談役として調理に携わることになりました。総監督として豊富な経験と技術を活かし、よりご満足いただける料理旅館を目指して精進して参ります。新料理長には吉池の右腕として12年務めて参りました「山田勝」が就任致しました。吉池とともに守ってきたしげの家の味を継承し、更なる進化を遂げるべく邁進中です。

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板前男児,千曲乃湯しげの家,吉池照明,プロフィール画像 板前男児,千曲乃湯しげの家,吉池照明,yoshiike teruaki

高山の日本料理店にて修行を重ね、1985年より2016年まで故郷の宿「しげの家」料理長を務めるyaeno-7_s1
戸倉上山田温泉 千曲乃湯しげの家
www.shigenoya.co.jp

〒389-0807 長野県千曲市大字戸倉温泉3055