第三回 中からは見えない郷土

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肉は上州和牛(じょうしゅうわぎゅう)。群馬の豊かな自然環境のもとで、優秀な血統を持つ黒毛和種を独自の飼料で大切に育てる安心・高品質の名産牛である。水の奇麗な神流川では「鮎」が、支流の「船子川」では、群馬のブランド鱒「銀ヒカリ」に岩魚、ブラウンなど良質

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な川魚が手に入る。嬬恋のキャベツをはじめ、逞しい野菜類は群馬の最も得意な食材だ。まるで餅米が入っているようなモチモチとして食感の米は、高山村の「銀河高原ファーム」より直接仕入れる。味噌と醤油は地元「桜井味噌店」と「高橋みそ店」の長期に熟成させた「伝田郷みそ」を使うことにした。日本酒は藤岡市内にある三つの酒蔵より、ワインは秩父のものを取り揃えた。住んでいると何も無いと思っていた地元は、外から見れば大山の言葉どおり食材の宝庫だったのだ。

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群馬の名産牛である「上州和牛」と、藤岡で採れる季節の野菜を炭火で香ばしく焼いたメインの皿。ミネラル豊かな利根川水系の水と、環境に合わせた独自の飼料で飼育される「上州和牛」は、柔らかな舌触りと風味に優れ、牛肉ならではの贅沢な旨さを堪能できる。藤岡の景勝地三波石峡(さんばせききょう)で採れる天然記念物の銘石「三波石(さんばせき)」を皿に見立て、地元ならではの食材の魅力を伝えている。

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自家製の湯葉で包み込んだ胡麻豆腐の煮物。豆腐・湯葉といったシンプルな食材により、土地の水そのものの良さを表現。ジャガイモを桜の花びらに見立てて散らした餡が、豆腐の味をいっそう引き立てている。ワラビをそえて季節を演出。淡い色の料理と艶やかな緑と金の器の彩りの調和も美しい。

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「この甘さはフルーツ」と絶対の自信を持つ、スライスした藤岡産の「設楽のトマト」とモッツァレラチーズ。辛子酢味噌を合わせることで、素材の美味しさを最大限に引き出したシンプルな酢の物としている。「山水」の料理は、とにかく野菜を美味しく食べることに重きをおいている。素朴な風合いに鮮やかな朱を塗った器が愛らしい。

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食材の仕入れが大筋固まると、大山の指導のもと西井は自らの調理技術の底上げに取り組むことになる。日本料理の第一線で活躍してきた大山の提案する「茜彩庵 山水」の献立は、西井にとって想像以上に手の込んだものだった。たとえば料理に使う餡ひとつとっても、以前は一種で良かった物が、これからは料理毎に何種類もつくり分けることになる。また、それらを五組それぞれの客の食べるスピードに応じて、最適なタイミングで調理して運ぶ必要がある。オープン当初の西井は一日がかりで仕込みを行い、調理も料理を出し始めて終わるまで三時間もかかることがあったという。

なんとか料理の準備も整ったリニューアル後、すぐに来てくれた客に出した献立の造りは「岩魚」だった。高いお金を払ってくれる客に対し、味に自信はあるとはいえ高価な海鮮食材を使わずに大丈夫だろうか?一抹の不安を拭えない西井に対して食べ終わった客が一言。
「岩魚が良かったよ、群馬に来てマグロなんか食べたくなかったからね」
郷土の食材を最大限に生かした懐石料理。山水で出す料理の方向性は完全に定まった。

二人の料理人
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高崎で修行後、家業のドライブインを継ぐ。2007年リニューアルの「茜彩庵 山水」の庵主兼料理長yaeno-7_s1
群馬県藤岡市(旧鬼石町)茜彩庵 山水

http://www.san-sui.jp/

〒370-1403 群馬県藤岡市保美濃山875